礼の精神

礼の精神

礼とはどういうことかと申しますと、ひらたくいえば、素直な心になって感謝と敬愛を表する態度であると思います。むずかしくいいますと、宇宙の秩序(真理)に順応したところの生活態度であります。

宇宙の秩序 - これを私は第一義的秩序といっておりますが - は、すなわち天地自然の理であって、宇宙根源の力(神といいかえてもいいと思います)から人間、万物に指し示された道であります。これに順応していく生活態度が礼であり、そこから人間社会の秩序が組み立てられていくと思うのであります。この人間社会の秩序を、さきに述べた第一義的秩序に対しまして、第二義的秩序といっておりますが、これはわれわれ現実の社会に具体的に現れた秩序であります。つまり天地自然の理に順応していくところの生活態度が礼であります。これは人間社会の秩序の基であり、この礼を踏み行なうところから平和の道がひらけていくと思うのであります。

宇宙根源の力と人間とのつながりについては、右(下)に示してありますとおり、生命力の線と、心的法則の線と、物的法則の線の三本で結ばれております。これによって宇宙の秩序に順応した生活態度というものは、第一に生命力の線、すなわち生命力を与えている宇宙根源の力に対する感謝であり、第二に心的法則の線、すなわち人間の心と心との交わりに対する喜び、敬愛であり、第三に物的法則の線、すなわち物に対する尊重の三つの姿となるわけであります。したがって、礼も三つに分けて考えられるのであります。

礼の精神(図) 

 

第一の礼:

素直な心になって宇宙根源の力に対し感謝と敬意を表すことであり、人間をつくり、万物をつくり、そのすべてを動かしていく基本的な力に対し、感謝と祈念とをささげることであります。これはいわば宗教であり信仰であります。

第二の礼:

素直な心になってお互いに愛しあい、尊敬しあうことであります。これは人倫であり道徳であります。

第三の礼:

素直な心になって物を尊重することであります。それぞれの物を生かして大事に使うことであります。これは経済であります。

このように礼は三つに分かれますが、人に対する礼も物に対する礼も、万物をつくりこれを動かしている宇宙根源の力に対する礼を基として組み立てられていくと思うのであります。

「松下幸之助の哲学」-松下幸之助 著