人間には、万物の王者としての偉大な天命がある。かかる天命の自覚に立っていっさいのものを支配活用しつつ、よりよき共同生活を生み出す道が、すなわち人間道である。
人間道は、人間をして真に人間たらしめ、万物をして真に万物たらしめる道である。
それは、人間万物いっさいをあるがままにみとめ、容認するところからはじまる。すなわち、人も物も森羅万象すべては、自然の摂理によって存在しているのであって、一人一物たりともこれを否認し、排除してはならない。そこに人間道の基がある。
そのあるがままの容認の上に立って、いっさいのものの天与の使命、特質を見きわめつつ、自然の理法に則して適切な処置、処遇を行い、すべてを生かしていくところに人間道の本義がある。この処置、処遇をあやまたず進めていくことこそ、王者たる人間共通の尊い責務である。
かかる人間道は、豊かな礼の精神と衆知にもとづくことによってはじめて、円滑により正しく実現される。すなわち、つねに礼の精神に根ざし衆知を生かしつつ、いっさいを容認し適切に処遇を行なっていくところから、万人万物の共存共栄の姿が共同生活の各面におのずと生み出されてくるのである。
政治、経済、教育、文化その他、物心両面にわたる人間の諸活動はすべて、この人間道にもとづいて力づよく実践していかなければならない。そこから、いっさいのものが、そのときどきに応じ、そのところを得て、すべてが調和のもとに生かされ、共同生活全体の発展と向上が日に新たに創成されるのである。
まさに人間道こそ人間の偉大な天命を如実に発揮させる大道である。ここに新しい人間道を提唱するゆえんである。
昭和五十年一月
松下幸之助